社長、正直キツイっすよね?
胃がキリキリする感覚、俺も知ってるよ。
特に、資金繰りの話になると、社長は孤独だ。
誰にも言えない。
社員に話せば不安が広がり、取引先に知られれば信用を失う。
そう思って、一人で夜中に決算書を睨んでいる社長が多いだろう。
俺もかつてはそうだった。
父から継いだ会社が、主要取引先の倒産で5,000万円の売掛金が焦げ付き、一気に資金ショート寸前に追い込まれた時、俺は社員に何も言えなかった。
しかし、その「沈黙」が、実は会社をさらに追い詰めていたんだ。
この記事では、借金地獄から生還した「資金繰りサバイバー」である俺、坂東誠が、なぜ社長は社員に「資金繰りのリアル」を話すべきなのか、そしてどう話せば現場が動くのか、その具体的なコミュニケーション術を伝える。
綺麗事抜きで、生き残るための知恵だ。
俺の失敗と成功の経験をすべてここに注ぎ込む。
もう一人で悩む必要はない。
社長、生き残ってナンボだ。
目次
なぜ、社長は「資金繰りのリアル」を社員に話せないのか?
多くの社長が、資金繰りの危機を社員に隠す。
その気持ちは痛いほどよくわかる。
俺もそうだったからだ。
だが、その行動の裏には、会社を救うどころか、危機を深めてしまう二つの「鎖」と「壁」が存在する。
社長の「見栄」と「不安」という名の鎖
社長が情報を隠す最大の理由は、「社員に不安を与えたくない」という人情だと思われがちだ。
しかし、もっと根源的なのは、社長自身の「見栄」と「不安」なんだ。
「俺が経営者として無能だと思われたくない」という見栄。
そして、「もし社員が辞めていったらどうしよう」という不安。
特に、俺のように現場上がりで、数字に強い自信が持てない社長は、この不安が強い。
銀行とのリスケジュール(返済条件の変更)交渉に時間をかけすぎた俺の過去の失敗は、まさにこの「不安」からくる判断の遅れだった。
「銀行融資こそ正義」と信じ、他の資金調達手段(ファクタリングなど)を拒否していたのも、世間体という名の見栄だったと言える。
社長の沈黙は、社員の給料を守るためではなく、社長自身のプライドを守るための行動になっていることが多い。
社員の「無関心」という名の壁
一方で、社員側にも問題がある。
多くの社員は、自分の給料がどこから、どういうプロセスで支払われているのかに「無関心」だ。
彼らにとって、資金繰りは経理や社長の仕事であり、自分には関係ない「遠い話」なんだ。
この無関心は、会社が危機に瀕した時に、最も恐ろしい「壁」となる。
社長が「頑張れ」と言っても、社員は「何のために?」がわからない。
危機感が共有されていないから、コスト削減や売上債権の回収といった、現場でできる「サバイバル行動」が一切起きないんだ。
社長が情報を隠し、社員が無関心でいる状態は、会社という船が沈みかけているのに、船長だけが必死に水をかき出し、乗組員は船室で呑気に過ごしているようなものだ。
俺が社員に「リアル」を話すことを決めた夜
俺がこの「鎖」と「壁」を打ち破り、社員に資金繰りのリアルを話すことを決めたのは、あの絶望的な夜だった。
給料日を目前にした「絶望の淵」の記憶
40歳の時、メインバンクに「追加融資は難しい」と突き放された。
目の前には、数日後に迫った社員30名分の給料日。
手元には、その半分にも満たないキャッシュしかなかった。
あの時、胃がキリキリするどころか、胃袋が冷たくなっていくような感覚を今でも覚えている。
俺は、父から継いだ会社を、自分の代で潰すのか。
社員とその家族を路頭に迷わせるのか。
この絶望の淵で、俺は初めて「綺麗事」を捨てた。
綺麗事抜きで「生き残る」ための決断
銀行とのリスケ交渉に時間を浪費し、資金ショート寸前まで追い込まれた失敗から、俺は学んでいた。
「資金調達にタブーはない。生き残るためなら、使える手段は全て使うべき」というリアリストとしての哲学だ。
そして、俺は藁にもすがる思いで、初めてファクタリングを利用した。
手数料は高かった。
「こんな高コストの資金調達は正義ではない」という過去の俺の価値観からすれば、まさに「悪」だったかもしれない。
だが、その「悪」が、社員の給料を払い、会社を生き延びさせる「酸素ボンベ」になったんだ。
この時、俺は悟った。
社員の給料を払うために、俺がどんな「裏技」を使っているか、どんな「タフな決断」をしているか、それを隠すのは、社員を「お客様」扱いしているのと同じだと。
彼らは共に戦う戦友だ。
戦友に戦場のリアルを隠して、どうして共に生き残れる?
俺は、その夜、翌日の朝礼で全てを話すことを決意した。
現場を動かす「資金繰りコミュニケーション」の3つの鉄則
社員に「リアル」を伝えることは、単に「お金がない」と泣きつくことではない。
それは、現場を動かし、V字回復のエンジンにするための戦略的なコミュニケーションだ。
俺が実行し、実際に効果を上げた3つの鉄則を教えよう。
鉄則1:現状を「格闘技」のようにタフに伝える(危機感の共有)
まず、感情論を排し、現状をタフに伝えること。
俺は朝礼で、こう切り出した。
「うちの会社は今、リングの上にいる。相手は『資金ショート』という名の強敵だ。そして、俺たちの酸素ボンベはあと3週間分しかない」と。
- 具体的な数字を出す: 「売掛金5,000万円が焦げ付いた」「今月の支払いは〇〇万円だが、手元のキャッシュは〇〇万円だ」と、隠さずに数字を提示した。
- 比喩を使う: 資金繰りの話は専門的になりがちだ。「資金繰りは酸素ボンベ」「経営は格闘技」といった比喩を使い、社員全員が直感的に理解できる言葉に変換した。
- 社長の責任を明確にする: 「この状況は、すべて俺の判断の甘さが招いた。責任は俺にある」と、まず社長が腹を括って謝罪した。
このタフな伝え方が、社員の「無関心」という壁を打ち破り、「これは自分たちの問題だ」という当事者意識を生んだんだ。
鉄則2:「数字」を「自分の仕事」に変換させる(当事者意識の醸成)
次に重要なのは、会社の数字と社員一人ひとりの行動を直結させることだ。
社員は「5,000万円の焦げ付き」と言われてもピンとこない。
だが、「この5,000万円を取り戻すには、お前たちが作っている製品を〇〇個、追加で売らなければならない」と言えば、話は変わる。
俺は、各部署の社員にこう問いかけた。
「お前たちの部署で、明日からすぐにキャッシュを生むためにできることは何だ?」
- 営業: 「入金サイトを1日でも短縮できないか?」「回収が遅れている売掛先に、俺と一緒に行って頭を下げてこい」
- 製造: 「今使っている工具の消耗品、本当にそのメーカーじゃなきゃダメか?」「無駄な残業を1時間減らせば、〇〇円のキャッシュが残る」
- 総務・経理: 「毎月払っている固定費の中に、今すぐ解約できるものはないか?」
このように、抽象的な「資金繰り」を、社員の日常業務に直結する具体的なアクションプランに落とし込んだ。
鉄則3:「生き残るための道筋」を具体的に示す(希望とアクションプラン)
危機感を煽るだけでは、社員はパニックになるだけだ。
社長の役割は、「絶望的な状況を乗り切るための精神的なタフさ」と「生き残るための道筋」を示すことだ。
俺は、ファクタリングという「裏技」を使ったことを正直に話した。
「今、俺たちは手数料の高いファクタリングという手段で、一時的に酸素を確保した。これは時間稼ぎだ」
そして、具体的なアクションプランを提示した。
- 短期目標(3ヶ月): ファクタリングのコストを上回るキャッシュを、コスト削減と売掛金早期回収で生み出す。
- 中期目標(1年): 銀行融資に頼らない、ABL(動産担保融資)や補助金など、多様な資金調達のポートフォリオを構築する。
- 長期目標(3年): 危機前の1.5倍の売上を達成し、強靭な財務体質を作る。
「俺たちは、この3つのステップで必ず生き残る。お前たちの力が必要だ」
感情論で終わらせず、必ず「で、具体的にどう動くべきか?」というアクションプランを提示することが、社員に希望を与える唯一の方法だ。
リアルを伝えた後に現場で起きた「V字回復」の兆し
社員に資金繰りのリアルを伝えた後、現場は劇的に変わった。
それは、単なる「頑張ります」という精神論ではない。
数字に直結する、具体的な行動の変化だった。
コスト意識の劇的な変化
最も顕著だったのは、コスト意識の劇的な変化だ。
以前は、製造現場で当たり前のように使われていた消耗品や、営業が何気なく使っていたタクシー代。
それら一つひとつに、「これは会社の酸素をどれだけ消費しているのか?」という視点が生まれた。
- 無駄な残業の撲滅: 「残業代は、俺たちの給料を払うためのキャッシュを減らしている」という意識が浸透し、時間内に仕事を終わらせるための工夫が自発的に始まった。
- 備品の見直し: 以前は誰も気にしなかった、トイレットペーパーやコピー用紙のコストまで、社員が自ら業者に交渉し始めた。
社員が「自分の仕事」と「会社のキャッシュ」を直結させた瞬間だ。
売上債権回収への「執念」
営業部門では、売上を上げる意識以上に、「キャッシュを掴む」ことへの執念が生まれた。
売掛金は、まだ「会社のキャッシュ」ではない。
回収して初めて、酸素ボンベの中身になる。
以前は経理任せだった売掛金の回収状況を、営業担当者が毎日チェックするようになった。
「入金サイトを少しでも短縮できないか」という交渉を、お客様との関係を壊さない範囲で、タフに行うようになった。
これは、「銀行は天気予報士」という俺の比喩が効いたのかもしれない。
銀行は晴れの日に傘を貸し、雨の日に取り上げる。
だからこそ、自分たちの力でキャッシュを掴むしかない、というリアリズムが現場に浸透したんだ。
社員が「資金調達のアイデア」を持ってきた話
極めつけは、製造現場の若手社員が、俺のところに持ってきたアイデアだ。
「社長、うちの古い機械、使ってないけど、まだ動くやつありますよね?あれ、ABL(動産担保融資)の担保にできないですか?」
ABLとは、機械や在庫などの「動産」を担保にお金を借りる資金調達手段だ。
以前の彼らは、こんな専門用語を知る由もなかった。
しかし、俺が「資金調達にタブーはない」と話し、ABLやファクタリングの仕組みを説明したことで、彼らは「会社の資産」を「キャッシュを生む道具」として見るようになったんだ。
この瞬間、俺は確信した。
社長一人の力では、会社は生き残れない。
社員全員が「資金繰りサバイバー」になることで、会社はV字回復できると。
まとめ:社長、もう一人で戦うな
社長、あなたの胃をキリキリさせている資金繰りの悩みは、社員に話すことで、「共に戦う力」に変わる。
俺の経験が、その証拠だ。
綺麗事抜きで、まずはキャッシュを掴め。
そして、そのリアルを、戦友である社員に伝えろ。
この記事で伝えた「現場を動かす資金繰りコミュニケーション」の鉄則を、明日から実行してほしい。
- 鉄則1: 現状を「酸素ボンベはあと〇日分」とタフな比喩で伝える。
- 鉄則2: 会社の数字を、社員の「自分の仕事」に変換させる。
- 鉄則3: 危機感だけでなく、「生き残るための道筋」を具体的に示す。
もう一度言う。
社長、生き残ってナンボだ。
あなたの会社の資金繰りの「酸素ボンベ」になることを約束する。
この記事で得た『生きた資金調達の知恵』と、『絶望的な状況を乗り切るための精神的なタフさ』を手に、次はこう動け。
一人で悩む社長を一人でも減らすことが、俺の使命だ。
共に、このタフな経営という格闘技を生き抜こう。
